■ チェブとゲーナとハリネズミ ■
『チェブラーシカ Cheburashka 』は,旧ソビエト連邦で作られたパペット(人形)アニメーションだ。ロマン・カチャーノフ Kachanov, Roman 監督により,1969年から1983年にわたり制作された。わずか4作の短編作品だが,ロシアではキオスクでぬいぐるみが売られているほどの人気キャラクターだという。
主人公のチェブラーシカは,箱詰めのオレンジにまぎれてアフリカからソ連にやってきた正体不明の生き物。顔の両側に広がった耳たぶが非常に大きく,一見して小ザルそのものの容姿なのに,初対面の子どもに「小グマさん?」などと訊かれたりするのは,エドゥアルド・ウスペンスキーによる原作の設定を踏襲しているからで,実際,原作(『チェブラーシュカとなかまたち』,伊集院 俊隆 訳,新読書社)のアルフェーフスキーによる挿し絵では,小グマというか,小ダヌキのような姿で描かれている。アニメのキャラクター・デザインは,レオニード・シュワルツマンによる。ちなみに,原作者が幼いころに遊んだ人形たちがモデルになっている点で,この作品は『クマのプーさん』の生国を異にする従弟といえる。
作品中では,小さくて無邪気でいたいけなチェブラーシカと,その親友でアコーディオンが得意なやさしい紳士のワニのゲーナ Gena ,すばしっこくてお洒落でいたずら好きなお婆さんのシャパクリャク Shapocliak(この意地悪婆さん,原作シリーズでは完全なカタキ役なのだが,アニメーションでは小気味よく,かわいらしくさえあるキャラクターで,憎めない)らをはじめとする動物や人間たちがカラんで物語が進行する。特にゲーナは,チェブと並ぶもう1人の主人公であり,むしろ,本当の主人公はチェブではなくゲーナだとさえいってよいかもしれない。自分自身さびしい思いをしながら,無邪気なチェブをさりげなくいたわり,はた迷惑なシャバクリャクに対しても礼儀を忘れないゲーナは,本当の紳士だ。なお,ゲーナのアニメーションは,若き日のノルシュテイン監督の仕事。
日本では,2001年の夏から秋にかけてチェブ・シリーズ4作中の3作が各地で公開され(東京では渋谷のユーロスペースで),人気を呼んだ。翌2002年3月には,クロックワークスからビデオ,DVDが発売され(4作目も収録),11月には,ラピュタ・アニメーション・フェスティバルの一環として,恵比寿の東京写真美術館で公開されている。公式サイトはここ。
また,劇場公開に合わせて,アニメーション絵本『チェブラーシカ』が発売されたが(プチグラパブリッシング,2001.07.),この中で紹介されているロシアのチェブ・ジョークの1つにハリネズミが登場している。
チェブラーシカとゲーナは刑務所に入れられた。チェブラーシカがゲーナに尋ねる。「ゲーナ、ねえゲーナ」……思い入れたっぷりにチェブやゲーナの声色を演じることが,このジョークのポイントだろう。この台詞を見ただけで,もう無性にチェブの声が,ゲーナの歌が,また聴きたくてたまらなくなるのは,きっと私だけではないはずだ。
「ゲーナ、ねえゲーナ、刑務所では頭をそられちゃうのかな?」
「わしは知らんよ、チェブラーシカ。そこにいるねずみに聞いてみたらどうだい」
とすみっこにいるねずみを指して言うと、彼はこう答えた。
「わたしはねずみじゃないですよ、はりねずみです!」
ハリネズミを「ネズミ」の名で呼ぶ言語は,私の知る限りでは日本語と中国語だけだが,このジョークから察するに,ロシア人の目から見ても,「ハリネズミ ハリを剃ったら ただのネズミ」(字余り)ということになるらしい。
(2001.11.24. 最終推敲:2002.12.14.)